旅するミタブン

文芸誌『三田文學』の歴史、ゆかりのある作家を巡る小さな旅の記録です。

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神奈川近代文学館へ  「須賀敦子の世界展」

次々と発生した台風の影響でなかなか天候が安定しませんでしたが、やっと落ち着いてきましたね。
そんな秋の午後、『旅するミタブン』は県立神奈川近代文学館へやって参りました。
2回目の来館ですが、今回の展示「須賀敦子の世界展」はどうしても拝見したかったのです。
全国で初となる須賀敦子の回顧展です。

20141017 須賀敦子展 1

「三田文学」116号(2014冬)で特集した須賀さん。反響も多く、私自身もすっかりファンになってしまいました。
毎週金曜日の14時から行われているギャラリートークへの参加者も非常に多く、今なお須賀さんに魅了されるファンが多いことを物語っていました。


今回の展示は、須賀敦子の一生を丁寧に時系列で追っています。
第1部から3部でその生涯、第4部で自身が愛したものを観ることができます。

須賀敦子は翻訳家、大学の先生として活躍し、61歳でデビューした文筆家です。実働期間8年。生前に5冊のエッセイ集を刊行しています。
遅咲きとはいえ、デビューまでの61年間は間違いなく文筆家・須賀敦子を育んだ時間でした。
展覧会では、その濃厚な時間をたどることができます。このブログでは極一部を紹介いたします。

須賀は1929年、大阪生まれ。兵庫県芦屋市で大手水道工事会社・須賀商会を営む家の長女として育ちます。父・豊治郎は文学的素養が高く、小説家になる夢を持っていました。しかし家業を継ぐために大学を中退します。
文学への思いを捨てきれない豊治郎を、家族は欧米への視察旅行に行かせました。その時の体験談が後の須賀に大きな影響を与えることになりました。
彼女が初めてフランスへ留学する際に父が書いた「渡航スケジュール」が、当時を思い出すエッセイとともに展示されています。
自分が渡航するかのように、そしてきっと外遊時のことを思い出してはしゃぐ父親の様子が浮かび、なにやら微笑んでしまうコーナーでした。

20141017 須賀敦子展 2
(写真は須賀が幼少期に愛読していた作品)


留学先のパリがなかなか肌に合わず、須賀はイタリア文学へと惹かれていきます。
展示されていた当時愛用の伊仏事典は、まさに転換期を示す証拠品のようで、重々しい雰囲気を醸し出しています。


最初の留学を終えた須賀は一度帰国し、3年後に改めてローマへ留学しました。
そして著作にもあるようにコルシア書店の仲間になるのです。
この頃の家族宛ての手紙が展示されています。丁寧な文字で非常に読みやすく、近況報告がまるでエッセイのよう。
必見です。

20141017 須賀敦子展 3


コルシア書店の代表者で須賀の夫でもあるジュゼッペ・リッカ(通称・ペッピーノ)。
1967年にペッピーノが急逝したためふたりの結婚生活は6年足らずという短さでした。
今回展示されているペッピーノの近影は、須賀が大切にしていた蔵書に挟まっていたもので、彼女が亡くなった後に発見されたものだそうです。
ペッピーノとの出逢いは須賀の人生を語るうえで欠かすことのできない出来事です。
端正でいて優しそうなペッピーノの写真を見ながら、「三田文学」116号の末盛千枝子さんのエッセイを思い出しました。

20141017 須賀敦子展 4


冒頭にも書きましたが、今回の展示は須賀敦子の生涯を丹念に追っています。
そのことが彼女の文学の根底を知る方法のひとつであると、展示を見終わってからじんわりと思いました。

今回の展示の編集委員をつとめていらっしゃる湯川豊さんもおっしゃっていますが、須賀敦子の大きな魅力のひとつに「文章の美しさ」が挙げられます。
須賀自身、文章を一語一語丁寧に選んで書くことにこだわりがあったようで、第3部に展示されている編集者との手紙からはその様子が伝わってきます。
身近に感じられると同時に、物書きの凄みが感じられました。

20141017 須賀敦子展 5
(写真は須賀愛用の椅子)

展示は11月24日まで。
秋の柔らかい光が海の青さを際立たせる横浜港が見える丘公園にある神奈川近代文学館へ、みなさま是非足をお運びください。

「須賀敦子の世界展」
会期 2014年(平成26年)10月4日(土)~11月24日(月・振休)
休館日 月曜日(10月13日、11月3日、24日は開館)
開館時間 午前9時30分~午後5時(入館は4時30分まで)
観覧料 一般600円(400円)、65歳以上/20歳未満及び学生300円(200円)
       高校生100円、中学生以下は入場無料  *(  )内は20名以上の団体料金
       ※東日本大震災の罹災証明書、被災証明書等の提示で無料

神奈川近代文学館への行き方 (リンクを貼っています。クリックしてください)

☆追加情報☆
須賀敦子さんの書簡が新発見されました。
毎日新聞、東京新聞の18日夕刊、日経新聞の19日朝刊で報道されたので御存知のかたもいらっしゃると思います。
御友人、スマ・コーンさん宛ての書簡で、新雑誌「つるとはな」(10月24日発売)に掲載されています。
その新発見された書簡も、神奈川近代文学館で10月24日から展示されました。
楽しみです。

reported by kurosuke
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  1. 2014/10/31(金) 14:22:27|
  2. 文学館
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日本近代文学館へ 「芥川賞・直木賞原稿コレクション展」

今回の「旅するミタブン」は駒場にある日本近代文学館へ行ってきました。
2010年に慶應義塾大学旧図書館にて開催された「三田文学創刊100年展」では、大変お世話になりました。

現在「芥川賞・直木賞原稿コレクション展」(9/27~11/22)を開催中です。

20141002 日本近代文学館 外観

1935年に始まった両賞は今年の夏で151回を数えました。
80年、そしてなお続いてゆく歴史を観ることができます。

非常に内容が濃く見どころの多い展示会でした。ここでは一部だけご紹介いたします。


まずは両賞の根幹をなす菊池寛と芥川龍之介、直木三十五それぞれの関係が分かる展示。
作家同士、あるいは出版社の代表と作家という関係だけでは片づけられない、ああこういう友人が欲しいなあと思う両者の関係が伺えます。

20141002 日本近代文学館 芥川弔辞

菊池寛のことを詠んだ芥川直筆の俳句。そして芥川の葬儀で読まれた菊池の直筆の弔辞。菊池は途中から嗚咽で声を詰まらせてしまったそうです。


第1回芥川賞候補となり下馬評では当選を予測されながら受賞を逃した太宰治のコーナーもあります。
芥川のことが大好きで、彼の名前を何度も書いた学生時代の太宰のノート。
受賞者発表の前に故郷の友人に宛てて、自分が受賞出来そうであると書いてしまった葉書。
こういう資料を観ると、太宰にファンが多い理由が分かる気がします。
この時代は1度候補になると、もう受賞資格がなくなるとされていました。
太宰がもし芥川賞を受賞していたらどうなったのでしょうか。

20141002 日本近代文学館 太宰.


三田文学に縁のある作家たちも両賞を受賞しています。

「人生の阿呆」で第4回直木賞を受賞した木々高太郎は三田文学の編集委員をつとめられ、その間に木々さんが見出し、三田文学で作家デビューした松本清張は「或る『小倉日記』伝」で第28回芥川賞を受賞しました。

柴田錬三郎も三田文学で処女作を書き、同誌に発表した「イエスの裔」で第26回直木賞を受賞します。
三田文学118号でも特集した「第三の新人」でお馴染みの安岡章太郎、遠藤周作、吉行淳之介は芥川賞を受賞しています。

20141002 日本近代文学館 安岡

20141002 日本近代文学館 吉行

今回の展示では作家の受賞当時の写真を見ることができます。遠藤周作の自信をのぞかせる笑顔が印象に残りました。

20141002 日本近代文学館 遠藤.


展示されている受賞者の言葉、選評を追っていくと、芥川賞、直木賞の歴史は日本の作家たちのひとつの流れであることもよく分かります。
例えば、選考委員の坂口安吾に推された松本清張は後に選考委員になり、そして井上ひさしを推挙し、大きな期待を寄せました。
川口松太郎は池波正太郎を「直木賞を与えれば作家的自信を生み大成する機会を与え傑作を作りだす」と称賛すれば、池波はそれに違わない活躍を後にみせることになります。
作家から次の世代へと手渡されて行くバトンを見るような思いがしました。

20141002 日本近代文学館 井上


最後にひとつ、浄書のことをご紹介します。
両賞の受賞者に受賞作の冒頭部分を原稿用紙に手書きで書いていただいたものを浄書といいます。以前は文藝春秋社から受賞者へ依頼していたそうですが、現在は日本近代文学館からお願いしているそうです。
最近はパソコン等で原稿を書く作家が多いですが、浄書は手書き。肉筆を見ることができる貴重な機会です。

20141002 日本近代文学館 浄書


日本近代文学館にあるお洒落な喫茶室「BUNDAN」では、両賞の受賞作にちなんだ特別メニューを食べられます。

直木賞からは浅田次郎の「鉄道員」。主人公の乙松が少女と向き合う最後の食事からインスピレーションを得たという
『ほっけの干物と冬野菜の煮付け定食』

芥川賞からは池澤夏樹の「スティル・ライフ」。友人・笹井が主人公に作った(と思われる)
『ブイヤベース』
両品ともに
単品/¥1,200
ドリンクセット/¥1,400

そして、メニューご注文の方に展覧会無料チケットプレゼントとのことです。


秋も深くなるこの季節。作家から作家へと受け継がれていく文学のバトンに思いをはせながら、駒場公園をゆっくりと散歩するという一日はいかがでしょうか。

20141002 日本近代文学館 駒場公園.


「芥川賞・直木賞原稿コレクション展」
開館時間 午前9:30~午後4:30(入館は4:00まで)
観覧料 一般200円 (20名以上の団体は一人100円)
休館日 日・月曜日、第4木曜日(10月23日)

日本近代文学館への行き方(リンクを貼ってあります。クリックしてください)
 京王井の頭線、駒場東大前駅(西口)より徒歩7分


reported by kurosuke
  1. 2014/10/09(木) 16:10:29|
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Author:旅するミタブン
『三田文學』は明治43年に創刊の文芸誌です。
現在は季刊で年4回、1月、4月、7月、10月に発売されています。

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