旅するミタブン

文芸誌『三田文學』の歴史、ゆかりのある作家を巡る小さな旅の記録です。

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練馬区立石神井公園ふるさと文化館 分室へ  檀一雄を中心とした文化サロン

7月末、練馬区立石神井公園ふるさと文化館 分室へ行ってきました。

20150730 石神井公園文化館 k

夏の強い日射しの中、石神井公園の緑が目に入るだけで体感温度が下がりました。
少年サッカーチームが芝生の上で弁当を食べ、テニスコートからはボールを打つ音が聞こえてきます。
夏休み。

公園の中に、ふるさと文化館の分室があります。

石神井公園は江戸時代からの行楽地でした。
三宝寺池の湧水で涼をとっていたのでしょう。
その後大正時代には東京市内から鉄道がひかれ、池の畔に料亭「豊島館」(後の石神井ホテル)も建設されました。

20150730 石神井公園文化館 l

その後も都心から近く自然の多いこの場所に魅せられた人々が集まってきました。
作家・檀一雄もそのひとりです。

檀は山梨県に生まれ、少年期を福岡県で過し、東京帝国大学に入学時に上京します。
結婚後の昭和17年から石神井周辺に住むようになりました。

20150730 石神井公園文化館 a

檀の周囲には、彼の人柄に魅せられた文化人がいつも集まっていました。
井伏鱒二、太宰治、坂口安吾、尾崎一雄、中原中也、草野心平、そして佐藤春夫。
三田文学関係者もいますね。

中でも、太宰治とは
「『君は―(中略)天才ですよ。たくさん書いて欲しいな』」(檀一雄『小説 太宰治』)
「檀君の仕事の卓抜は、極めて明瞭である。(中略)前人未到の修羅道である(太宰治『檀君の近業について』)
と互いを認め合いながらも、
「溺れる者同士がつかみ合うふうに、お互いの悪徳を助長」(檀一雄『青春放浪』)
するという密接な時間を過しました。

また、檀は佐藤春夫を慕っており、佐藤も檀の才能を早くから評価します。
檀が第一短編集『花筐』(はながたみ)を上梓するまえに、太宰を連れて佐藤の家を訪れました。
『花筐』の表紙を佐藤に描いてもらうようにお願いするためです。
佐藤は気軽に承諾したあとに、「『何を描くかな、えー花筐と……』」と悩みはじめます。
太宰も一緒になって考えた末、「『花だから蝶。先生、蝶はどうかしらん……』」と提案すると、佐藤も殊の外喜んで「一決」しました。
「だから『花筐』の表紙の蝶は先生の寛大な彩色によると同時に、太宰の発想が添えられているものだった」(檀一雄『小説 太宰治』)

20150730 石神井公園文化館 b

また『小説 太宰治』の表紙の絵は太宰の描いた花に彩られ、佐藤春夫の題字が添えられています。

20150730 石神井公園文化館 f

『花筐』の出版記念会の予告日に動員令を受けた檀は、陸軍報道班員として従軍しました。そして終戦後に再び上京し、石神井に居を構えます。
この土地は壇にとって、亡妻律子、そして太宰たちと過した青春の思い出が色濃く残っていたのでしょう。
1974年に福岡県能古島へ転居するまで、檀は石神井を中心に活動し、彼を慕う仲間が集っていたのです。

坂口安吾は妻と愛犬を連れて檀宅の一室を借り、2か月近く逗留しましたし、他にも、眞鍋呉夫、前田純敬、五味康祐、庄野潤三などの作家が石神井周辺に居住していました。

20150730 石神井公園文化館 g
(五味康祐のオーディオセット 練馬区立石神井公園文化館 分室内に展示)

ひとりの作家を中心に、石神井には文化サロンが形成されていたのです。
檀自身の魅力、面倒見の良さ。そして自然が多く明るい雰囲気の土地。
1951年に檀は直木賞を受賞。1953年に五味が芥川賞(選考委員に坂口安吾)、1955年には庄野も芥川賞を受賞しました。


地域という視点から作家の交友関係をひも解いていくことで見えてくる文学史があるということを、まのあたりにできた1日でした。
その土地に根差した研究を熱心に続ける方たちの大切さをしみじみと嚙みしめながら石神井公園内を散歩していると、ひときわ大きなトンボが木陰で昼寝をしていました。

20150730 石神井公園文化館 j.

ヤブヤンマです。
夕方になると高所で捕食をし、日中はその名のとおり藪の中で静かに息をひそめているため、普段は人目につかないトンボなのだと、大きな日よけ帽子を被ったご婦人が教えてくださいました。

本当に幸運な1日だったようです。

暑さも少しだけ和らいでまいりました。
石神井公園文化館分室を見学した後に、池のほとりで幸運のトンボを探してみてはいかがでしょうか。

企画展『志と仲間たちと――文士たちの石神井、美術家たちの練馬――』
9月27日まで開催しております。



〈参考文献〉  図録「志と仲間たちと―文士たちの石神井、美術家たちの練馬―」
         図録「檀一雄展」




◆ 練馬区立石神井公園ふるさと文化館(リンクを貼ってあります。クリックして下さい)
(注) 文化館と分室は徒歩で10分弱離れております。
西武池袋線 石神井公園駅 / 西口から徒歩15分
西武新宿線 上石神井駅 / 北口から徒歩30分
西武バス 荻 15 「石神井郵便局」バス停より徒歩1分
西武バス 吉 60 「石神井郵便局」バス停より徒歩1分


reported by kurosuke
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  1. 2015/08/24(月) 11:50:05|
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『三田文學』は明治43年に創刊の文芸誌です。
現在は季刊で年4回、1月、4月、7月、10月に発売されています。

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